太っている人ほど座っている時間が長い

「運動を始めると、運動不足になる! 」というジョークがあります。ここで言う運動不足は、日常生活の活動量を含めたトータルの活動量が少ない、という意味です。

「中年太り」を予防・解消できるかどうかに、意外と大きく関わっているのが日常生活の中での細々とした活動つまり、「生活の中で少しずつ動く」ことです。

毎日、トレーニングウエアに着替え、スポーツシューズを履いて、1時間くらいウォーキングをしている人がいます。しかし、万歩計をつけてみると、1日7000歩程度という場合がよくあります。運動していることで安心し、それ以外の時間はほとんど座っているからです。だから、運動だけでなく、運動以外の日常での活動量も重要なのです。

この活動を「NEAT= ニート/非運動性活動によるエネルギー消費)」と言います。ちょっとした移動で立ったり、歩いたりといった細かい活動を指します。近

年、アメリカの研究者が「肥満の人と肥満でない人を比較した結果、肥満でない人は1日350kcalも消費エネルギーが多かった」と発表して以来、「NEAT」が注目されるようになりました。

「肥満の人が1日のうち立っている時間は373分、座っている時間は57分だった」のに対し、「肥満でない人は立っている時間が526分、座っている時間が470分だった」のです。1日350kcalも違えば、1ヶ月で15000~1840kcal、1年で127500kcalになります。

これが体脂肪として蓄積されれば、1年で4kgも太ってしまうことになります。ですから、肥満を防ぎ、健康を維持・増進するためには、運動以外の時間もできるだけ体を動かすようにします。とくに座って行なう仕事に就いている人は、要注意です。

「仕事中は、体を動かす機会なんてない! 」と思われるかもしれませんが、じつは、少し意識するだけで、チョコチョコと動く機会が見つかるはずです。たとえば、

  • 誰かに用事を伝えるときは、社内電話を使わずに相手に直接会って伝える
  • デスクワークを1時間したら、気分転換に5分ほど立って歩く
  • 数階の移動にはエレベーターではなく階段を使う

自宅でも

  • ごみ捨てなどの家事を買って出る。
  • アレビはリモコンを使わずに立っていって、本体で操作する

1つひとつは小さなことでも、日常的に、チョコチョコと動くことが大切なのです。こういった工夫をして、日々の「NEAT」を増やしましょう。

1日3回10分ずつ歩く

「歩く」というと、「1日1万歩」が頭をよぎる人も多いことでしょう。たしかに厚生労働省をはじめ多くの専門機関が、1日8000歩~10000万歩を推奨しています。
「1日10000歩」とは、1日中の全活動の歩数です。仕事や通勤、買い物や家事といった生活活動での歩数(生活活動量) と、その他、意識的に行なう運動・スポーツ(ウォーキングやジョギングなど) での歩数(運動量) の合計ですが、じつは、普通歩行だけでも、1日60分」ほど歩いていれば十分「1日10000歩」は、達成できます。もちろん、よほど日常的に歩くのが「好き」という人でなければ、「1日60分」も歩くことはないでしょう。

しかし、逆に言えば、普通歩行「だけ」でも、「1日60分」で「1日10000歩」は満たせるのです。デスクワークが多い人でも、意識的に少し、通勤に徒歩をまじえたり、会社でも階投を使ったりなど、動く機会を持つようにすれば、意外と簡単に達成できます。
「1日10000歩」は、それほどハードルの高い目標ではありません。

このように、日常の無意識的な活動に、意識的な運動を補足するも適しているのが、「歩き」なのです。それにもっとここで改めて言っておきたいのが、「10分を1日3回、週4日、計2時間」で十分だということ「短い時間で、回数を多く歩く」のがもっとも効果的な歩き方だということです。必死になって毎日歩く必要もありません。「1日10000歩」= 「普通歩行60分」と言うと、「60分のウォーキング」で一気に満たそうとする人が少なくありません。その大半は、健康のためのウォーキングは、1時間ほどは歩かなければ効果がないと、思い込んでいます。たしかに、以前は「脂肪を燃やすなら、30分以上続ける必要がある」と言われていました。

「運動のエネルギー源は糖なので、まず糖を燃やしてからでないと脂肪は燃やせない。だから時間がかかる」という理由でした。しかし、この「燃焼順番説」は否定されています。この章の冒頭で触れたように、「軽い運動」、つまり個人感覚で「ややきつい」くらいに歩けば、ホルモンの分泌がよくなって、結果的に肥満が抑えられるのです。

最近の研究で、「60分続けて歩く」より、「10分ずつの細切れ6回」のほうが、血圧を下げるなど健康面でいい影響を及ぼすこともわかってきました。歩くペースは時速6km、つまり一分間に100mから始めて、40代男性なら時速7km強、つまり1分間に100mを目標にします。
普通の歩行で時速4km、1分間約70mが平均ですから、運動不足の人にとっては1分間100mでも、10分間続けるのはけっこうきつく感じるはずです。でも、無理をしないで継続していれば、しだいに目標のペースで歩けるようになり、歩く距離も伸びてきます。具体的には、たとえば週5回の通勤のうち4日間は、朝、自宅から最寄駅まで行くのに15分をかけて歩く、という具合で始めるといいでしょう。

徐々に15分で歩ける距離が伸びてきたら、たまには1駅、2駅先まで少し時間をかけて歩いてみる、といったことにも挑戦してみてください。ただし、くれぐれも無理のないように、何より「継続すること」が大切です。

歩くときは、シューズをスニーカーに履き替えています。革のビジネスシューズでは足への負担が大きく、ひざや足首、かかとを傷めるおそれがあります。適切なのはジョギング用、ウォーキング用といったスポーツシューズで、底は柔軟性のあるもの、かかとはクッション性が高いもの、つま先は余裕があって窮屈でないものです。
スポーツ用品店などでは、ビジネスシューズのようなデザインで、こうした機能を持った靴も扱っています。「通勤用のウォーキングシューズ」を1足、持っておいてもいいでしょう

効果大「駅の階段」を使う

実際の例です。47歳のAさん(女性)は、保険外交員をしています。階段を駆け上がると息切れしたり、心臓がドキドキしたりしていました。心肺機能が衰えていたのです。
運動を中心に改善を図ることにしたのですが、多忙のため、その時間がとれません。そこで、日常生活の中で運動不足を補うことにしました。

通勤時の自宅から駅の間は、これまでは片道10分の普通歩行でした。そこで、行きは階段を上がるコース、帰りは坂道を上るコースに変え、階段、坂道以外は速歩にしました。速歩は普通歩行の1.3倍、階段上がりは普通歩行の2.5倍、坂道上りは普通歩行の2倍(ただし勾配の程度による) くらいの運動強度です。

普通歩行とは、平地を時速約4kmで歩くことです。これは「らく」のレベルですが、運動能力が低下している人にとっては、時速4kmでも「ややきつい」というレベルになることもあるので、注意が必要です。

Aさんは、行きは「階投上がり3分、速歩5分」、帰りは「坂道上り3分、速歩4分の通勤」に変え、従来の通勤の2.5五倍近い活動量を確保しました。数ヶ月後、心肺機能が高まり、階段もらくに駆け上がれるようになっています。このように、運動を行なうときには、まず心拍数も目安にしながら自分の運動能力を知り、それに応じて頻度、強度、時間を決めます。

たとえば、運動などこの10年間いっさいやっておらず、駅の階段を上がるだけでも息切れする… といった人は、まず自宅から駅までの道のりを3分間だけ遠回りするなど、小さなことから始めます。続けていれば、必ず効果が実感できるはずです。「そういえば最近、駅の階段を上がってもあまり息切れがしなくなってきた」と感じたなら、3分間だけ遠回りしていたのを5分にする、1駅分歩く、などと徐々にレベルを上げていけば、ゲームをクリアする感覚で楽しく運動を続けられるでしょう。

もちろん、レベルを上げるごとに、あなたの体は、どんどん「太らない体」になっていきます。再度、注意していただきたいのは、あくまでも無理は絶対禁物ということ。

いくら軽い運動でも、続けていると心拍数が上がってきます。はじめは「かなりらく」と感じるレベル(心拍数103程度) でも、10分、20分と続けるうちに「かなりきつい」と感じるレベル(心拍数158) に上がってくることも多々あります。ここで無理せず、休むかペースを落とすことが肝心です。

なまじ体力に自信がある人は、「非常にきつい」と感じるレベルに達するまでがまんして続行してしまいがちですが、息も絶え絶えで積黒的に「激しい運動」になってしまっては逆効果です。無理をすると「活性酸素」がたくさん発生して、肥満のもととなる体の「錆び」が進んでしまうからです。「太らない体」をつくるための運動は、がんばったり、人と競争したりしてはいけません。