日本では糖尿病の合併症による透析患者が増えている

こちらのとおり、人工透析は腎症患者さんに対する治療です。特に、腎機能が正常時の30% を下回った状態を腎不全といい、そうなってしまったら大変です。腎臓が機能を失ったら、二度と取り戻すことはできないからです。そうなると、人工透析を導入するか腎臓移植を受けるしかありません。

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しかし、移植に関しては世界的にドナー(臓器提供者) が不足しており、日本では特に長期の待機を強いられています。つまり、ほぼすべての腎不全患者さんが自動的に人工透析を導入することになります。

多くの場合は、血液透析という方法の人工透析です。これは、血液をいったん体外に取り出し、ダイアライザーという機器で浄化して再び体内に戻すというもの。何度も針を刺すことになるので、前腕にシャントという太い血管を造設します。

シャントとは、手術で一部を動脈につないで血流を増やした静脈のことです。ここで思い出していただきたいのは、糖尿病が血管と神経を傷める病気であること。腎症には2種類あり、もともと腎臓に何らかの障害があるものと、糖尿病によって腎臓が悪化したものです。

近年の日本で増加の一途にあるのは、後者のほうです。糖尿病によって血管が弱っていると、せっかく造設したシャントもたびたびトラブルを起こすことになります。針を刺しやすくするために太くしたのに、血流が悪くなったり詰まったりするのです。そうなると、再手術を受けるしか手立てがありません。

現在、日本の透析患者さんは増え続けています。数年前には、27万人とも28万人ともいわれていましたが、最近ついに30 万人を突破しています。これはもちろん、糖尿痛患者さんがそれだけ増えていることの証明にほかなりません。一刻も早く、糖尿病への抜本的な対策が必要なのです。

糖尿病 | 健康メモ

糖尿病のホントのリスクは合併症にある 糖尿病性網膜症 糖尿病性腎症 糖尿病性神経障害など

糖尿病は非常に恐ろしい病ですが、痛みもかゆみもないため、本人にはまったく自覚がありません。通院をやめてしまう人もいるのは、そのためでしょう。放置してしまう人が多く、後を絶ちません。

しかし、長い間にゆっくりと少しずつ確実に全身をむしばんでいきます。気づいたときには取り返しのつかない状態…とならないよう、日頃からの注意と生活習慣、食習慣、運動習慣が必須です。

糖尿病の本当の怖さは、合併症。急性合併症と慢性合併症がありますが、ここでは慢性のほうだけをご紹介しましょう。次の3 つが、3大合併症と呼ばれる病気です。

  • 糖尿病性網膜症
  • 糖尿病性腎症
  • 糖尿病性神経障害

最初の糖尿病性網膜症は、目の奥にある網膜という部分の血管が悪くなる病気。非常に細い血管ですが、ひどければ、失明に至ります。次の糖尿病性腎症は、腎臓の糸球体という部分の血管が悪くなる病気です。この血管は網膜と同様に非常に細い血管です。

腎臓の働きが低下して尿をつくれなってしまうので、その作業を機械に代行させる人工透析が必要になります。人工透析は1 回4~5時間、週3 回の通院を強いられるため、仕事や日常生活に大きな支障が出ます。これまでと同様の生活は送れないでしょう。しかも、その生活を一生続けなければなりません。

最後の糖尿病性神経障害は、主に手足の末梢神経が変調をきたす病気。症状の出方は人によってさまざまですが、最悪の場合には足の指などに壊痕を起こし、切断を余儀なくされるケースがあります。

日本では、糖尿病性網膜症から失明する人が年間3000人もいて、人工透析を導入する人が年間1 万人ずつ増加しています。

人工透析と聞いても、点滴と同じようなものだと軽く考える人が多いのですが、とんでもありません。人工透析は、血管内にたまった3 日分の尿を、機械で強引に浄化する作業です。血圧が一気に下がるので、治療後もフラフラしてしばらく立てない人もいます。

水分摂取に厳しい制限がある上に治療スケジュールが完全に決まってしまうため、夏の暑い日も冬の雪の日も通院しなければなりません。東日本大震災のとき、被災地に住む透析患者さんたちを北海道や関東の施設が受け入れて救済したのは、こうした事情があるためです。

自宅の近くに病院があればまだいいのですが、離島や僻地となるとそう簡単にはいきません。通院のために片道2時間かかれば、それだけで1 日がつぶれます。透析患者さんには、そんな気の遠くなるような労力が一生必要になるのです。

血糖値の高い血液は血管を傷つけます

そして、糖尿病の合併症が現れるのは、目や腎臓や神経であるとも書きました。目や腎臓は、毛細血管が細かく入り組んでいる部位。鏡をのぞくと、白目の部分に細い血管がたくさん集まっているのがわかるはずです。こうした血管が狭くなったり詰まったりした結果、失明や腎不全を引き起こすのです。

大動脈のような太い血管なら、カテーテルという細い管を入れて内側から修復する治療が可能ですが、毛細血管にそれはできません。どの合併症にせよ、そこに至るまでは最低でも10年はかかっているはずです。できるだけ早く対処すれば、失明や人工透析や、足の切断は避けられるのです。

もちろん、糖尿病そのものも予防できるのですから、その最大の原因である肥満に自覚のある方は、今すぐダイエットを始めるべきです。

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糖尿病は血管と神経を傷つける病気 合併症が怖い

糖尿病の合併症を読むと糖尿病という病気はそのものの病気よりも合併症が怖いことがよくわかります。

糖尿病は、血液に含まれる糖分が多すぎる病気です。その発見は古く、紀元前のエジプトやインドの文献に記録が残っています。インドの文献には、「蜜の尿」という表現がなされ、「甘いのでアリが集まってくる」と記されているそうです。

「糖尿病という名前なんだから、おしっこの病気じゃないの? 」と思われる方もいるでしょう。確かに、「血糖病」などとしたほうが、より直接的だったかもしれません。でも、血液と尿には密接な関係があります。実は、尿の材料は血液なのです。心臓から出て動脈を通り、酸素や栄養分を体の隅々に届けた血液は、代わりに老廃物を集めて静脈をエ戻ります。その途中で腎臓に立ち寄り、そこで浄化されて必要な成分と不要な成分に分けられます。その不要なものが尿であり、尿には処理しきれなかった糖分も含まれています。それが、紀元前のインドの医師が書いた「蜜の尿」というわけです。

それから長い間、糖尿病は「喉が渇くために大量の水を飲み、したがって大量の尿が出る。その尿は甘く、体中の骨や筋肉が溶け出していき、著しく痩せる。腎臓や目に障害が出る場合もあり、やがて死に至る病気」とされてきました。
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不治の病として、人類に恐れられていたのです。糖尿病になる原因は、もちろん糖質(糖分) の取りすぎです。しかし、1921 年にインスリンというホルモンが発見されるまで、そのメカニズムが解明されることはありませんでした。

インスリンは、膵臓のランゲルハンス島というところでつくられているホルモンですが、そもそも膵臓の働きがずっと不明だったからです。人間の三大栄養素は、「糖質」「脂質」「タンパク質」。糖質は活動するためのエネルギーになり、脂質とタンパク質は体をつくる材料になります。

活動とは、手足の動作や脳の思考だけでなく、体温調整や心臓の鼓動といった人体機能のすべてを指しています。したがって、糖質は体を動かす燃料といっていいでしょう。この糖質に対して、人体はちょっと不思議な仕組みをもっています。糖質のまま体内に保存することなく、エネルギーが必要なときに適正な形で活躍できるよう、いくつかの形に変身させるのです。

胃や腸で消化された糖質は、いったんブドウ糖などに形を変えます。それが体内に吸収されると、今度はグリコーゲンという形になって肝臓に収納され、必要な状態になると再びブドウ糖に戻って体内に放出されるのです。

そして、この糖質の元になるのが、食事で取り入れた炭水化物。主に、米や麦やイモなどに含まれるデンプンです。糖質と聞くと、ケーキやアイスクリームなどの甘いものを連想するかもしれません。

でも、人間が体内に摂取する炭水化物の大半は、主食(米・パン・麺類) からのもの。多くの日本人は毎日、朝食にトースト、昼食にパスタ、夕食にご飯といった食生活を続けているため、l 日の炭水化物の稔摂取量がものすごく多いのです。炭水化物を食べると、すぐに膵臓が反応してインスリンを分泌します。そのとき、炭水化物はブドウ糖に変身していますが、ブドウ糖は自分だけでは細胞に入り込めません。

異物に人られないよう、細胞が堅牢な城壁で厳しくガードされているからです。そこで、城壁の扉を開ける鍵を持ったインスリンが登場してエスコートしてくれ、ブドウ糖はやっと紳胞の中に入れるのです。

実に複雑な仕組みでしょう? しかし、複雑なものはそのぶん脆弱です。炭水化物をたくさん食べると大量のインスリンが必要となり、膵臓が大忙しになってしまうのです。

それでも、膵臓は頑張ります。せっかく、体のエ、ネルギー源である炭水化物が取り入れられたのだから、なんとしてでも細胞に届けようと必死です。しかし、それでも限界があり、やがて精根尽き果ててしまいます。この状態が長く続き、膵臓のインスリン分泌能力が下がって血液中にブドウ糖があふれてしまう病気それが、糖尿痛です。

糖尿病には、2種類あります。これまで説明した、生活習慣病として中年以降にしばしば起きるタイプのものを2 型糖尿病といい、糖尿病患者の95 % を占めています。もう一つの1型糖尿病は、何らかの理由でインスリンを分泌できないタイプで、先天的なものもあることから以前は小児糖尿病とも呼ばれていました。

糖分を多く含んだ血液は、膵臓を疲れさせるだけでなく、全身でさまざまな悪さをします。最もひどいのは、血管の内側を傷つけてしまうことです。コレステロールのところで触れたように、転んだりつまずいたりして擦り傷をつくるとかさぶたになり、しばらくすると新しい皮膚が形成されて傷口がふさがれます。

これと同じょうに、傷ついた血管の内側にもかさぶた(プラーク) ができます。プラークは、1 カ所ではなく血管のあちこちにでき、時間をかけて治ったり傷ついたりを繰り返します。すると、その部分のプラークはだんだん盛り上がり、やがて血管を狭くしていきます。これきを狭窄といい、狭窄は血管の厚みが増したのと同じ状態ですから、触ると硬く感じられます。

これが、悪名高き動脈硬化です。プラークは、何かのはずみで血管からはがれることもあります。はがれたプラークは血流に乗って移動し、細い血管や別の狭窄などに引っかかって停止します。これを血栓といい、止まった位置が脳であれば脳血栓、肺であれば肺血栓と呼びます。

また、血管の一部が血流の圧力によってふくらんだものを動脈癌といい、脳のそれが耐え切れずに破れてしまえば脳動脈癖破裂、つまり脳内出血やクモ膜下出血です。

血管に狭窄があれば、血流も滞ります。プラークはどんどん隆起を進め、無症状だったときには10だった血流が8 になり、6 になりと悪化していきます。そうして血管に狭窄が増えると、心臓は血液を送り出す力を強めます。

これが、高血圧です。狭窄が進んで、完全に血管が詰まってしまった状態が塞栓です。その先の血管に血液が行けないのですから酸素や栄養が届けられず、やがて周辺の細胞は死んでしまいます。それが脳なら脳梗塞、心臓なら心筋梗塞というわけです。

ちなみに、脳卒中というのは「脳に中って倒れる」という状態を示す言葉で、病名ではありません。脳梗塞、脳内出血、クモ膜下出血などの総称です。脳卒中も心筋梗塞も、昔は不治の病でした。今は、血栓を溶かす注射や、カテーテル術と呼ばれる血管内治療などが進化したおかげで、軽度のものなら治療できる時代です。しかし同時に、命は助かったものの、半身不随などの重い後遺症が残ってしまうケースも少なくありません。

その原因となる動脈硬化は、それほど怖いのです。この項では、動脈硬化の原因を高血糖としました。それ以外にも原因はあり、喫煙、ストレス、極度の肥満、老化などがあげられています。あえて「高血糖= 血管を傷つける」と強調したのは、糖尿病の合併症の怖さに触れなければならないからです。

動脈硬化はこうして起こる