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脂肪はつきやすく燃焼しにくいもの

私たちの体には、脂肪がたくさんついています。有名なのは、おなかの周りにたっぷりとついた皮下脂肪と、おなかの中に隠れた内臓脂肪です。

ところで、「太る」という現象は、人体にとってはどんなものでしょうか。たとえば、20代の頃には60 kgだった人が、50 代になって80 kgになったとします。増えた20 kgは、おなかの周りの脂肪細胞の数が増えた結果でしょうか

そうではありません。脂肪細胞の数は、生まれてからしばらくの問は成長のために増加していきますが、それ以降はほとんど一定です。この例の場合なら、体重が増えた20 kg分だけ、「脂肪柵胞が太った」のです。脂肪細胞の数が決まるのは、3歳の頃だといわれています。それまでに、脂肪細胞をたくさんつけた人が大人になると、そうでない人より太りやすい傾向にあるわけです。

逆にいえば、大人になってから脂肪細胞の数を減らそうと思っても、無理な相談です。でも、こうして脂肪がつくのは、私たち人類が進化してきた証。それこそ、生きていくために「身につけた知恵」です。食べ物として摂取した炭水化物はいったんブドウ糖に分解され、さらにグリコーゲンという形に変えて肝臓や筋肉に貯蔵することはご説明しました。

狩猟生活をしていた時代には、いつ次の食事にありつけるかがわからないため、こうして体内にエネルギーを貯蔵しておく必要があったのです。しかし、実はこれだけでは貯蔵量が足りません。体内のグリコーゲンで飢えをしのげるのは、せいぜい半日か1 日でしかないのです。

そこで、もっと大量にエネルギーを貯蔵する場所として脂肪に白羽の失が立ちました。この機能があるおかげで、私たちは食べ物がなくても何日聞かは生きられます。

一説によれば、その日数は40日間。ときどき漁船などが漂流してしまい、何日もたってから乗組員の方が救出されることがあります。

ニュースでは、体重が20 kgも減ったなどと報じられますが、それは貯蔵していた脂肪が使われた結果です。晋間も生きられるエネルギーですから、量も膨大です。そのため、炭水化物が摂取されると、人体は保存しょぅ保存しようと躍起になります。その貯蔵庫が皮下脂肪や内臓脂肪なのですから、人は炭水化物を食べれば食べるほど太っていくのです。

脂肪には2種類あり、99% は皮舌 脂肪や内臓脂肪などの「白色脂肪細胞」です。その役割は、エネルギーを貯蔵すること。

一方、たった1 % しかない少数派を「褐色脂肪細胞」といい、こちらの役割は余分な脂肪の燃焼です。それなら、褐色脂肪細管増やせばダイエットできそうです。ところが、白色の細胞数が不変なのに対し、褐色は成長とともに減少していきます。脂肪が体につきやすく、燃焼しにくいという特性は、こうして年齢とともに増幅されてしまうのです。

同じ名前で混同しやすいのですが、肉などに含まれる脂肪分を食べても消化されるだけで、人体には保存されません。つまり、脂がたっぷりのっておいしい和牛肉をたらふく食ベても、その牛肉の脂肪分は人体の脂肪にはならないのです。このメカニズムは、ブタも同じです。養豚業を営む知人に聞いたところ、脂がのっておいしい豚肉をつくるためには、穀物を7割も入れたエサを与えて育てるのだそうです。

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低炭水化物ダイエットの登場

肥満と栄養との関係を調べる研究は、昔も今も世界中で研究がすすめられています。

肉や乳製品を多く摂取していた欧米人が、米や小麦(パン・麺類・ピザなど) を中心とする食事に切り替えて肥満を増やしたという事実も判明しました。そこで登場したのが、炭水化物の摂取を控えるというダイエット法です。

考案者であるロバート・アトキンス博士の名前からアトキンス式、あるいはローカーボダイエットなどと呼ばれています。

基本的な考え方は、肥満や糖尿病の原因となる炭水化物を食べなくするというもの。「従来の常識」である低カロリー・低コレステロールダイエットと真っ向からぶつかる理論だったので、医学界に与えたインパクトも強烈でした。

以来、世界中で賛否両論が飛び交いました。まだ決着がついたとはいえませんが、現在のところでは肯定的な意見が多数派です。

太古から続いた人類の食事が肉食であり、糖質(炭水化物) がゼロだった事実から見ても、低炭水化物ダイエットは理にかなっていると考えています。

そこには、さまざまなメリットがあります。まず、空腹を感じなくなるのです。炭水化物をたくさん食べると、食後血糖値が急上昇します。そこで、膵臓がインスリンを大量に分泌して対応し、糖分の処理を無事に済ませてくれます。

このとき体内は、「急に上がった血糖値が、今度はグッと下がった状態」になっています。そこで脳が何をするかといえば、なんと再び空腹のサインを出すのです。

人間には、炭水化物を食べておなかがいっぱいになっても、すぐに空腹を感じる仕組みが備わっているというわけです。

炭水化物のない食事では、このように血糖値が乱高下することはありません。空腹感も安定するので、食事をしたすぐ後に「小腹がすいた」と、菓子パンやポテトチップをつまんでしまうような間食もなくなるのです。低カロリー・低コレステロールダイエットでも、当然ながら間食は禁止です。

でも、血糖値が乱高下している人の空腹感は強烈ですから、我慢しろと命令されてもそうはいきません。一度か二度は我慢できても、ずっと続けるのは無理な話。だから、ある程度は体重が落とせた人でも、いつかは必ずリバウンドします。ここに、低カロリー・低コレステロールダイエットでは痩せられない理由があるのです。肥満は、狩猟生活を続けていた人類が獲得した、食べ物がないときのために脂肪を貯蔵しておく仕組みによって起こります。

いつでも好きなときに食事ができる今、脂肪の元となる炭水化物を大量に取ると、人体の機能が狂ってしまうというわけです。しかも、炭水化物を食べるとすぐにおなかがすいて、再びドカ食いをすることになります。膵臓は休みなく働かされ、やがて疲れ果てます。

結果、糖尿病へとまっしぐらです。ドカ食いや間食をする人は、「意志が弱い」と周囲に言われます。糖尿病で通院している方は、栄養指導で叱られます。ところが実際は、体内でこうしたメカニズムが働いているのが原因。けっして、本人の意志が弱いために肥満になったのではないのです。

低炭水化物ダイエットイコール糖質制限ダイエットについてはこちら。

注意が必要な「インスリン抵抗性」

ゴハン、うどん、パスタ、パンなどの炭水化物を食べると体内でブドウ糖に分解され、膵臓がインスリンを分泌してその吸収を助ける働きがあります。

炭水化物を大量に食べれば、そのぶん大量のインスリンが必要です。ここで考えなければならないのは、そういう食生活を20 〜30年という長期間にわたって続けていると、インスリンの効果が薄れてしまうことです。

この状態を、「インスリン抵抗性」といいます。インスリン抵抗性になると、さらにインスリンの分泌が必要になります。すると、体は脂肪を蓄積しよう蓄積しょうとする方向に傾きます。

脂肪を蓄積しやすく、分解しにくい状態にしてしまうわけです。ここまでくると、もっと厄介なことが起きます。内臓脂肪の蓄積によって、アディポサイトカインというホルモンの分泌異常が起こり、インスリン抵抗性をさらに増強してしまうのです。アディポサイトカインは脂肪細胞が分泌するホルモンの総称で、人体機能を調節する働きをもつ物質です。

これまでに約30種類が発見されており、中には肥満やメタポリックシンドロームに大きく関わる物質もあります。代表例を少しあげてみましょう。

TNF-α
体内の炎症を促進させると同時に、インスリンの働きを低下させる。
アンギオテンシノーゲン
血管を収縮させ、血圧を上昇させる。
PAI-1
血液を凝固させ、血栓をつくりやすくする。

肥満→糖尿病・メタポリックシンドローム→動脈硬化→脳卒中・心筋梗塞などの致死性疾患というメタポリックドミノを、思い切り促進させる物質ばかり。

どう考えても、体にいい作用をしているとはいえません。ァディポサイトカインは近年に発見されたばかりで、まだまだ研究途上にあるといえる物質ではあります(善玉のアディポサイトカインもいます)。

とはいえ、インスリン抵抗性がこれほどのリスクを内包しているのは確かです。炭水化物の大量摂取は、膵臓を疲れさせてしまうばかりでなく、こんな悪影響も引き起こしてしまいます。

まさに、体調悪化の悪循環です。加えて、インスリン抵抗性は異常なほどの空腹感も生み出します。体内では、糖代謝異常、高血圧、脂肪肝などが進行しています。

ところが本人は、食欲もいたって旺盛なのだからと、病気を自覚することなく大食いに突っ走ります。長期間続ければ、やがて全身の動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞への坂道を転げ落ちていくだけです。インスリン抵抗性にならないためには、何をすべきか。もう、おわかりですよね? 炭水化物の摂取量を減らせばいいのです。
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