太る理由

低炭水化物ダイエットの登場

肥満と栄養との関係を調べる研究は、昔も今も世界中で研究がすすめられています。

肉や乳製品を多く摂取していた欧米人が、米や小麦(パン・麺類・ピザなど) を中心とする食事に切り替えて肥満を増やしたという事実も判明しました。そこで登場したのが、炭水化物の摂取を控えるというダイエット法です。

考案者であるロバート・アトキンス博士の名前からアトキンス式、あるいはローカーボダイエットなどと呼ばれています。

基本的な考え方は、肥満や糖尿病の原因となる炭水化物を食べなくするというもの。「従来の常識」である低カロリー・低コレステロールダイエットと真っ向からぶつかる理論だったので、医学界に与えたインパクトも強烈でした。

以来、世界中で賛否両論が飛び交いました。まだ決着がついたとはいえませんが、現在のところでは肯定的な意見が多数派です。

太古から続いた人類の食事が肉食であり、糖質(炭水化物) がゼロだった事実から見ても、低炭水化物ダイエットは理にかなっていると考えています。

そこには、さまざまなメリットがあります。まず、空腹を感じなくなるのです。炭水化物をたくさん食べると、食後血糖値が急上昇します。そこで、膵臓がインスリンを大量に分泌して対応し、糖分の処理を無事に済ませてくれます。

このとき体内は、「急に上がった血糖値が、今度はグッと下がった状態」になっています。そこで脳が何をするかといえば、なんと再び空腹のサインを出すのです。

人間には、炭水化物を食べておなかがいっぱいになっても、すぐに空腹を感じる仕組みが備わっているというわけです。

炭水化物のない食事では、このように血糖値が乱高下することはありません。空腹感も安定するので、食事をしたすぐ後に「小腹がすいた」と、菓子パンやポテトチップをつまんでしまうような間食もなくなるのです。低カロリー・低コレステロールダイエットでも、当然ながら間食は禁止です。

でも、血糖値が乱高下している人の空腹感は強烈ですから、我慢しろと命令されてもそうはいきません。一度か二度は我慢できても、ずっと続けるのは無理な話。だから、ある程度は体重が落とせた人でも、いつかは必ずリバウンドします。ここに、低カロリー・低コレステロールダイエットでは痩せられない理由があるのです。肥満は、狩猟生活を続けていた人類が獲得した、食べ物がないときのために脂肪を貯蔵しておく仕組みによって起こります。

いつでも好きなときに食事ができる今、脂肪の元となる炭水化物を大量に取ると、人体の機能が狂ってしまうというわけです。しかも、炭水化物を食べるとすぐにおなかがすいて、再びドカ食いをすることになります。膵臓は休みなく働かされ、やがて疲れ果てます。

結果、糖尿病へとまっしぐらです。ドカ食いや間食をする人は、「意志が弱い」と周囲に言われます。糖尿病で通院している方は、栄養指導で叱られます。ところが実際は、体内でこうしたメカニズムが働いているのが原因。けっして、本人の意志が弱いために肥満になったのではないのです。

低炭水化物ダイエットイコール糖質制限ダイエットについてはこちら。

注意が必要な「インスリン抵抗性」

ゴハン、うどん、パスタ、パンなどの炭水化物を食べると体内でブドウ糖に分解され、膵臓がインスリンを分泌してその吸収を助ける働きがあります。

炭水化物を大量に食べれば、そのぶん大量のインスリンが必要です。ここで考えなければならないのは、そういう食生活を20 〜30年という長期間にわたって続けていると、インスリンの効果が薄れてしまうことです。

この状態を、「インスリン抵抗性」といいます。インスリン抵抗性になると、さらにインスリンの分泌が必要になります。すると、体は脂肪を蓄積しよう蓄積しょうとする方向に傾きます。

脂肪を蓄積しやすく、分解しにくい状態にしてしまうわけです。ここまでくると、もっと厄介なことが起きます。内臓脂肪の蓄積によって、アディポサイトカインというホルモンの分泌異常が起こり、インスリン抵抗性をさらに増強してしまうのです。アディポサイトカインは脂肪細胞が分泌するホルモンの総称で、人体機能を調節する働きをもつ物質です。

これまでに約30種類が発見されており、中には肥満やメタポリックシンドロームに大きく関わる物質もあります。代表例を少しあげてみましょう。

TNF-α
体内の炎症を促進させると同時に、インスリンの働きを低下させる。
アンギオテンシノーゲン
血管を収縮させ、血圧を上昇させる。
PAI-1
血液を凝固させ、血栓をつくりやすくする。

肥満→糖尿病・メタポリックシンドローム→動脈硬化→脳卒中・心筋梗塞などの致死性疾患というメタポリックドミノを、思い切り促進させる物質ばかり。

どう考えても、体にいい作用をしているとはいえません。ァディポサイトカインは近年に発見されたばかりで、まだまだ研究途上にあるといえる物質ではあります(善玉のアディポサイトカインもいます)。

とはいえ、インスリン抵抗性がこれほどのリスクを内包しているのは確かです。炭水化物の大量摂取は、膵臓を疲れさせてしまうばかりでなく、こんな悪影響も引き起こしてしまいます。

まさに、体調悪化の悪循環です。加えて、インスリン抵抗性は異常なほどの空腹感も生み出します。体内では、糖代謝異常、高血圧、脂肪肝などが進行しています。

ところが本人は、食欲もいたって旺盛なのだからと、病気を自覚することなく大食いに突っ走ります。長期間続ければ、やがて全身の動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞への坂道を転げ落ちていくだけです。インスリン抵抗性にならないためには、何をすべきか。もう、おわかりですよね? 炭水化物の摂取量を減らせばいいのです。
糖尿病やダイエット中でも糖質制限食なら好きなものをお腹いっぱい食べてもOK

全植物には毒がある

動物と同じように、植物も生活環境に合わせた進化をしています。動物と同じように、敵から身を守り、子孫を残すため、植物も進化しているということです。

そのため、多くの植物は毒をもっています。野菜を煮るとアクが出ますが、あれも一種の毒です。「シュウ酸」という、独特の苦みを発する物質をもっていて、敵に食べられないよう身を守っているのです。

生で大量に食べたら、必ずおなかをこわします。現在、世の中に出回っている野菜はすべて、食用にするため頻繁な品種改良を重ねた植物です。シュウ酸を減らす改良がなされているのですが、それでもゼロではありません。

テレビのグルメ番組で、野菜を食べたレポーターが「自然がいっぱいでおいしい! 」などと言いますが、実は品種改良を重ねた末の人工物であって、自然の産物ではないのです。

シュウ酸を減らしたため害虫に弱くなり、大量の農薬も使われています。食卓によく登場する野菜といえば、ジャガイモ、ニンジン、タマネギです。では、私たち日本人がこれらを口にするようになったのは、いつ頃からでしょう?

ジャガイモとニンジンは、16〜17世紀に日本に伝わりました。江戸時代が始まった頃です。

タマネギはもっと近年で、明治時代も末になってから。カブ、ゴボウ、ダイコンなどは6 〜8 世紀頃の伝来ですが、いずれにせよ日本人が野菜を食べるようになったのは、こんなに最近の出来事なのです。

古代には、そんな近代的な食用野菜など存在しません。おそらく、野草を食べて食中毒で亡くなるような出来事が何度もあったことでしょう。

現代では、「ヘルシー」な野菜サラダがもてはやされています。特に女性のヘルシー士心向は根強く、コンビニでお弁を買うときにも必ず野菜サラダが一緒です。ここに、大きな落とし穴が潜んでいます。

野菜サラダの材料といえば、レタス・トマト・キャベツといったところが代表です。最近では、ダイコン・タマネギ・ピーマン・ホウレン草なども好まれています。このホウレン草にはシュウ酸が多く含まれるため、生で大量に食べるとさまざまな体内物質と結合してしまい、腎臓や尿管の結石になる可能性があるのです。

シュウ酸にはまた、カルシウムや鉄などのミネラルと結合し、その吸収を妨げる働きがぁります。健康を気にする人が、骨密度や貧血を気にしてミネラルを多く含む食品を食べても、シュウ酸と一緒に食べたらまったく無意味になってしまうのです。ホウレン草をゆでると出るアクが、シュウ酸です。

つまり、生食でなければ大きな問題はありません。最近では、シュウ酸を少なくして生食用に品種改良したホウレン草も登場しています。

ちなみに、ホウレン草をよく食べる人の中には、貧血を気にしているケースも多いと思います。しかし、野菜に含まれる鉄分は非ヘム鉄で、その吸収率は1 ~6 % 。

一方、肉に含まれるヘム鉄は10 〜20 % と、大きな開きがあります。この違いも、人体が肉食向きの進化を遂げてきたことが根底にあるのかもしれません。

本来は肉食動物である人間が無理をして草食をすると、さまざまなトラブルが起こります。ホウレン草は、あくまで一例にすぎません。人間が野菜を食べることはヘルシーなようでいて、実は自然の摂理に反したおかしな話なのです。

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