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コレステロールは私たちの体に必要不可欠

コレステロールに悪玉も善玉もないことをお話しましたが、次に、コレステロールがどんな役割をしているかについてです。

その最大ともいえる働きは、細胞膜をつくること。人間は約60 兆個の細胞でできていますが、タンパク質とともにその膜(細胞を部屋にたとえれば、天井や床や壁の部分) を構成しているのがコレステロールです。

もう一つの役割は、ホルモンの原料になること。ご存じのとおり、ホルモンは体内で合成され、体を活性化する物質です。有名なところでは男性ホルモンや女性ホルモン、難しく名前のものでは甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンなどがあり、それらのすべてはコレステロールでできているのです。

たとえば、私たちがつまづいて転んで擦り傷をつくると、かさぶたができて自然に治癒します。このとき、肝臓から患部に急行してかさぶたをつくるのも、コレステロールの役割です。

破れた皮膚から異物が混入しないよう、大急ぎで傷口を覆っているのです。そのため、全身に大ケガをした直後に健康診断を受けると、血液の悪玉コレステロール値はものすごく高い値になるはずです。

細胞膜をつくり、ホルモンをつくり、ケガをするとかさぶたをつくつて体を守ってくれるコレステロールは、こんなにも大事な役割を果たしているのです。このほか脳や神経、消化液などの原料でもあります。これだけ見ても、コレステロールが人体に欠かせない重要な物質であることがわかります。

コレステロールがなければ、細胞膜もホルモンもつくれません。けっして、体に害を及ぼす悪玉物質などではないのです。HDLコレステロールとLDLコレステロールの違いは、LDLが全身に運ばれる新品であるのに対し、HDLが使用済みの中古品だということ。

つまり、細胞膜やホルモンの材料となるのがLDLであり、役目を終えて回収されるのがHDLです。

体内のコレステロールの8 割は肝臓でつくられており、残る2割が食事からの摂取。肝臓に集められたHDLコレステロールは、そこで新たに再生されます。

こうしてコレステロールは、生産→ 運搬→ 活動→ 回収→ 再生という流れを繰り返していくのです。

LDL は、全身に届く新鮮なコレステロールのことなのに、悪玉などと間違ったネーミングをされてしまい、本当にいい迷惑です。

こうして残念なことに、コレステロールは体に悪いものとして認識されてしまいました。発端は、LDLコレステロールが心筋梗塞の原因だと考えられていたことでした。

国民の死因の第1位が心筋梗塞であるアメリカでは、心臓や血管関係の研究も盛んに行われています。

あるとき、動脈硬化を起こした血管を調べたところLDLコレステロールが発見されたため、コレステロール1 動脈硬化1 心筋梗塞との連想がなされたのです(後になって、このとき見つかったのはごく微量だったという事実が判明しました)。

1988年、アメリカはコレステロール悪者説を根拠に、新たな心筋梗塞撲滅プロジェクトを始めました。肉類をはじめ卵や乳製品の摂取を控えさせ、コレステロール値の高い人には低下薬を飲ませるという努力です。その結果、アメリカ人のコレステロール値は驚くほど下がり、日本人よりも低くなりました。それなのに、アメリカ人の心筋梗塞発症率は依然として高いままで、日本人の3倍もあります。

国民の体を使って行われたこの国家プロジェクトは、失敗に終わってしまったのです。この経験から、アメリカはすでにコレステロール悪者説の間違いに気づき、新たな説へと移行してきています。

「低カロリー・低コレステロールダイエットを進めても心筋梗塞は減らなかった。だったら、その間に食べていた別のものに問題がある」とわかったからです。

調べてみると、コレステロールを減らすためにステーキを避けた人たちが、代わりに口にしていたのは炭水化物でした。アメリカで日本食が大ブームになり、スシバーの開店ラッシュがあったことを覚えていると思います。それが日本に逆輸入され、アボカドを使った巻き寿司などがもてはやされました。

ちょうどその頃が、コレステロールを減らす国家プロジェクトの実施時期と重なります。コレステロールを控えるために、アメリカ人は炭水化物を食べました。国民の健康を思って行われた国家プロジェクトは心筋梗塞を減らさないばかりか、かえって肥満や糖尿病を増やしてしまうという残念な結果に終わりました。

さて、ここで1つのキーワードが出現しました。炭水化物です。この後も繰り返し登場させますが、まずはこう覚えてください。肥満の原因になる栄養素はただ1つ、炭水化物しかありません。

コレステロール関連リンク:
ストレスがたまると中性脂肪とコレステロールが増える

コレステロールは善玉も悪玉もない

健康診断を受けると、報告書に「善玉コレステロール(HDLコレステロール/ HDL-C )」と「悪玉コレステロール( LDL コレステロール/ LDL-C )」という項目が登場します。

以前は、「総コレステロール」の項目もあったのですが、特定健診( いわゆるメタボ健診) の導入とともに外されることになりました。

この分け方も、一般の方を誤解に導く要因となりました。なぜなら、コレステロールは一つの物質で、善玉も悪玉もないからです。あえて分けているのは、それぞれの役割が異なるからなのですが、だからといって違う名前をつけたのは行きすぎでした。

しかも、わざわざ「悪玉」などという言葉を使った点に、「コレステロール= 悪」という間違った情報を人々に植え込もうとする意図さえ感じてしまいます。善玉と悪玉の遠いは、次のとおりです。

善玉コレステロール
血管から肝臓に戻るコレステロール
悪玉コレステロール
肝臓から血管に行くコレステロール

これだけです。簡単にいえば、肝臓行きの船(HDL)に乗ったものが善玉コレステロールで、血管行きの船(LDL) に乗ったものが悪玉コレステロール。

乗り込んだ船の行先が異なっているだけで、両者は同じ1つの物質なのです。まあ、「コレステロールは動脈硬化の原因」という考えが前提だったわけですから、貯蔵庫である肝臓から血管に行くほうのコレステロールを悪玉としたのでしょうが、いささか短絡的なネーミングでした。

これにより、多くの人たちがコレステロールに対する偏見をもつ結果を導いてしまったのは、まぎれもない事実なのですから。さらにいえば、コレステロールはドロドロした物質ではありません。語尾が同じことから連想できると思いますが、実はアルコールの仲間。「ドロドロして怪しい物質」とのイメージは、真実からまったくかけ離れた間違いなのです。

悪玉・善玉関連リンク:

善玉コレステロールと悪玉コレステロールの働き

 

コレステロールの本質

コレステロールについて、どんなイメージを持ってるでしょうか。おそらく、なん
だかドロドロして怪しい物質で、それが体内にあると悪いことをする。

だから、脂のたっぷりついたステーキや揚げ物、肉などは食べないほうがいいらしい…といったイメージをもつ方が大半ではないかと思います。

テレビや雑誌を見ていても、「コレステロール値が高いと不健康」とか、「数値を下げないと動脈硬化になる」といった表現がたびたび登場します。グルメ番組では、「コレステロールがないし、いろいろな野菜がたくさん食べられてヘルシー」と、女性リポーターがほほえみます。コレステロールを悪いものと決めつけ、それを多く含む卵やマヨネーズは
目の敵です。これらは、すべて大間違いです。

実は、コレステロールを悪いとする説が根拠としている実験は、なんと100 年も前の大昔に行われたものでした。

1913 年、ロシアの研究者がコレステロールの豊富な脂肪食を大量に与えるというウサギの実験を行いました。すると、ウサギの血管に動脈硬化が見られたため、両者には相関関係があるとしたのです。ちょっと考えてみれば誰でもわかるのですが、この研究はデザイン段階からおかしなことになっています。

なぜなら、ウサギは草食動物。大量の脂肪分を与えても、体が受け入れられるはずがありません。しかも、このときウサギにできた動脈硬化は血管の外側で、内側にできる人間のそれとはまったく違う疾患といっていいものでした。

80年代、当時も「コレステロール=悪」という風潮でした。コレステロールの本質について、詳しく説明しましょう。
コレステロールは私たちの体に必要不可欠